日本資本の退嬰主義と進展主義

 だが凡そそういう弁解はもう役に立たない世の中だ。或いはまだ役に立たない世の中だ。何しろ日本は今、膨張することだけが商売なのだから。農民問題、失業問題、その他何々、それはまあ、後回わしにしようではないか。[#地から1字上げ](一九三五年)[#改ページ]

[#1字下げ]5 日本資本の退嬰主義と進展主義[#「5 日本資本の退嬰主義と進展主義」は中見出し]

 かつて河北省に於ける農民暴動と夫による自治独立政権運動とが報道された際に、一つどうしても理解の行き兼ねる内容があったのである。それを私は他の機会にも述べたのだが、農民が苛斂誅求を免れようとか平和を得ようとかいう要求と並んで、北支の赤化を防止せねばならぬという要求をかかげて、敢えて蜂起したという云い伝えが夫である。北平や天津を含んでいる河北省に、一体どれだけの赤化の魔手とかいうものが現実に延びつつあったか、又現実に延びようとしつつあったかに就いては、ここに決着をつけようとは思わないが、併し暴動農民の自発的な要求の一つに、赤化防止の項目があったらしいと一二報道されたということは、現代の国際的な社会常識から云って何と云っても妙ではないかと思われたのである。河北の農民大衆が、それまでに、いつの間に防共思想へ善導されたかは殆んど吾々の理解を超越したことだ。

 私は今ここに赤化や又防共の是非を論じようとは思わぬ。だが一体この防共とは何を意味するのか。華北防共自治委員会なるものが出来たそうであるが、之は北支五省の連絡機関であるらしい。それの一部である文化特別委員会なるものは、略々次の五つの目的を持つと見られている。第一は、三民主義の排撃、第二は排日思想の撲滅、第三は共産主義の撲滅、第四は外来思想の打倒と東洋思想の鼓吹、第五は日満支三国の文化的融和。こうしたものが所謂防共政策なのである。之によるとこの防共政策は、赤化防止に名を借りて、親日的反国民政府的文化政策以外の、何ものでもなかったということが少なくとも判るのだ。

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