警察機能

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 警察が暴力団狩りを徹底的に遂行するということは、警察自身として相当の危険が伴うという意味に於て、必ずしも安易な警察道ではないだろう。併し社会人の日常生活を保護し身辺の安全感を保証することが警察の唯一の使命であるべきだと思われる以上、暴力団狩りは警察としては当り前過ぎる程当り前で、別に感心することも当らないし、本当をいうと特別に感謝に値いすることでもない。警察を感謝するなら普段から常々感謝すべきであって、暴力団狩りに際して特別に感謝するということは、よく考えて見ると筋の通らないことだ。 併しそれは理屈であって、かくいう私自身も大いに警察のギャング狩り方針に感謝しているのが事実なのだ。併しギャング沙汰は決して今に始まったのでもなければ、又所謂暴力団が特別に最近になって殖えたとも思われないのだから、もし之までもう少し熱心に暴力団狩りに力を入れて来てさえいたら、警察は今更ワザワザ感謝されるような羽目に陥らずにすんだだろうと思う。 なる程この数年は非常時の連続である。有名な人物が殺されたり殺されかかったりする。十七八の子供までが大人の真似をして人殺し団を組織したりしている。之が所謂非常時なのである。処で軍部あたりに云わせると、一九三五・六年がこの非常時の絶頂だとか、或いはもっと延びて一九三七・八年が本当の非常時だという。そうすると当分この人殺し風俗は続くと見るのが愛国的認識であるかも知れぬ。だがこういう行為の主体は大抵必ずしも所謂暴力やギャングではなくて、却って愛国的な志士や何かなのだ。だから非常時になったから所謂暴力団が特別に盛んに横行するようになったとは云えない。従って警察当局が今更思い出したようにギャング狩りを徹底し始めることによって、不当の感謝をかち得るということは、必ずしも警察当局の名誉にはならぬ。 警察当局が特別に感謝されればされる程、それはこのギャング狩りが如何に思いつきのように突然であるかを示すもので、この感謝は実は之まで警察がこの最も警察的な仕事であるべき暴力の取締りを忽せにしていたという、過去に対する皮肉に他ならないかも知れない。警察は之まで、思想警察とか風紀警察とかいう極めて形而上学的な警察行動ばかりに興味を持っていて、之に較べれば一般民衆が身辺に感じ得るような経験的な危険を防止することにはそれ程興味を持たなかったが、今度は突然その罪滅しをしようと云うのである。無論大いに徹底的に、自信を以てやって欲しいものである。罪を改めるに吝かであってはならぬ。

— posted by id at 12:42 pm  

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