社会的に優遇されている

 一般に官吏は他の職業人に較べて社会的に優遇されている。黙っていても昇進し又昇給することは当然の約束なのだし、場合によっては形式的にせよ身分保証まで出来ている。割合若くから恩給はつくし遺族扶助料もつく。だがそういう社会身分の優越は官吏の進取の気象を傷けこそすれ官僚としての支配者的政治手腕を産む原因とは考えられない。又鉄道省のお役人のように、国民を支配するよりも寧ろ之にサービスしなければならぬ官吏は、すぐ様官僚とは一寸云えまい。だから官僚というものは、官吏の或る小部分に基いて而も或る特殊な場合に発生する処の特色を官吏全般へ漫然と推し及ぼしたものに他ならない。――処が日本では、官吏は官員様[#「官員様」に傍点]と云って、その出来上りの初めから、官僚[#「官僚」に傍点]としての権威が備わっていたのである。 前に日本の資本主義が封建制の残存物に基いたものであることを述べておいたが、日本の官吏が初めから官僚として発生したという事実は、直接之と関係があるのである。元来明治維新の社会変動は、初めは徳川幕府下に於ける封建制度のただの編成替えを意味したと云ってもいいのであって、将軍徳川藩に代って有力藩が封建制の建て直しに進もうとしたのであったが、併しこの封建制の編成替えという社会変動の形が、やがて中央集権の形を取るようになり、そこから不完全ながらブルジョア改革、或いはそのための準備の形に移行することになったのである。だから明治初年の政府は全く、旧封建領主から解放された藩士が官吏となって組織した藩閥政府であったのである。この藩士達の官吏が、封建制の遺物を利用して発達した日本資本主義の特別な産物であることが、ここからも判ろう。処でこの藩士こそやがて官僚[#「官僚」に傍点]と軍閥[#「軍閥」に傍点]との母胎になるものなのである。 一体日本の資本主義が封建制の遺物を相当完全に整理し終らない内に、大急ぎで資本主義の姿を取らなければならなかったのは、他ならぬ外国の先進資本国に対して対抗しなければならなかったという事情からである。之は殆んど凡ての後進資本主義国の運命なのである。その結果この資本主義は、自然に下からの庶民(当時は大衆をそう云った)の側から萌え出る代りに、上から政府が半ば強制的に助長発達させねばならなかったものであった。だから日本資本主義の初期に当っては、自由主義や民主主義の代りに、国家による干渉主義が採用されざるを得ない。処で、その任に直接当るものは他でもない官吏なのだから、官吏が日本の資本主義発達のために果さなければならなかった支配者的役割は、単に行政的な範囲に止まらずに、甚だ重大なものであらざるを得なかった。そこでこの官吏の背後に控えた国家の権力は、愈々益々官吏の権威を高めたわけだ。こういう権威を帯びさせられた官吏が、所謂官僚なのである。

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